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新型コロナウイルスの模型

 

こんにちは。生き物担当学芸員の柏木です。

 

新型コロナウイルスSARS-CoV-2の3Dデータから、3Dプリンターで100万倍に拡大した模型を作成したのでご紹介します。

ニュースなどで新型コロナウイルスの写真や絵を見たことがあると思いますが、なんだか丸くて周囲に小さな突起が生えているアレのリアルな模型です。

 

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写真1:新型コロナウイルスSARS-CoV-2の電子顕微鏡写真(提供:国立感染症研究所)

 

実際の新型コロナウイルス(以下、ウイルス)の直径は100nm (Bar-On et al. 2020) ですが、この模型は直径10cmに拡大したものです。これは、ヒトの髪の毛の太さ約0.04mmを名古屋市科学館の天文館の球体の直径約40mに拡大するのと同じくらいの拡大率です。…あれ?余計分かりにくくなったかな…。

 

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写真2:作成した模型@理工館6階 話題の科学コーナー

 

イチオシのポイントは、オレンジ色のスパイクタンパク質(以下、スパイク)やピンクに塗られた脂質二重膜部分について、3Dデータに基づいた正確なウイルスの構造*を見ることができるところです。スパイクはウイルスが生物に感染するときに宿主側の細胞に最初に結合する部分です。新型コロナウイルスの”コロナ”はラテン語で王冠を意味していて、これは、スパイクのあるウイルスの形が王冠のように見えるからと言う理由で名付けられています。名実ともに重要な構造なのです。

ウイルスの膜に存在する黄色の点は膜 (M) タンパク質、青色の点はエンベロープ (E) タンパク質を示しています。これらは分かりやすくするために、模型をプリントアウトした後、模型上に小さな突起として追加しました。内部に入っている水色の紐はウイルスが持つRNA、緑色の丸いものは核 (N) タンパク質を表現しています。といっても、実際のウイルスは小さすぎて色はないのですけれどね。

 

 

この模型は名古屋市立大学医学部の先生方と一緒に作成したものです。とてもリアルな模型ができたのは、ウイルスの構造の3Dデータはどれを使うか?といったことから、スパイクタンパク質の根元の部分が細すぎて折れるかもしれないからちょっと補強してプリントアウトしてみよう!というようなことまで…専門家の先生方にあらゆる相談に乗っていただいたおかげです。ちなみに、ウイルスの3Dデータはアメリカの国立衛生研究所(NIH)がオンライン上に公開(https://3dprint.nih.gov/)していて、世界中の誰でも見ることができます。興味のある方は、どんなものがあるのかチェックしてみてください。

 

この模型は、理工館6階の話題の科学「続 新型コロナウイルスSARS-CoV-2 ワクチンと変異」コーナーに展示しています。ぜひ見に来てください。

それと、この話題の科学を作った堀内学芸員もこの模型やその周辺情報を色々と語ってくれるようです。次回の学芸員NOWもお楽しみに。

 

*スパイクの柄の部分は、非常に壊れやすいため模型上では1mm程度太くしています。

 

 

参考文献:Yinon M Bar-On, Avi Fkamholz, Rob Phillips and Ron Milo (2020) Science Forum: SARS-CoV-2 (COVID-19) by the numbers, eLife 9: e57309, pp.1-15.

模型製作協力(敬称略):名古屋市立大学医療デザイン研究センター 寺田 隆哉、名古屋市立大学大学院医学研究科脳神経科学研究所神経発達症遺伝学分野 金澤 智

3Dモデルデータ提供:SARS-CoV-2 Virion (PathogenAR Version) Submitted by kbrowne, National Institutes of Health/ National Institute of Allergy and Infectious Diseases U.S., doi.org/10.1021/acs.jpcb.0c04553, https://3dprint.nih.gov/discover/3dpx-014820

 

文:学芸員 柏木晴香

 

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