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話題のヒアリ

 

生き物担当学芸員の柏木です。

4月1日に理工館6階の「話題の科学」の展示を更新しました。今回のテーマはヒアリです。

 

ヒアリ.jpg

ヒアリの働きアリ。大きさにばらつきがあるのが特徴。

"Red Imported Fire Ant (Solenopsis invicta)" by stevenw12339 is licensed under CC BY-NC 2.0

 

 

ヒアリSolenopsis invicta は、南米原産で毒針を持つ、体長2.5mm~6mmくらいの小さなアリです。

貿易船の貨物コンテナに紛れて、南米→北米へ、そしてヨーロッパ、オセアニア、東アジアへと世界中に分布を広げ、今や世界で最も深刻な影響を及ぼす外来アリとされています。

日本で初めて侵入が確認されたのは2017年、兵庫県尼崎市でした。その後、愛知県でも名古屋港を中心に度々ヒアリの侵入が確認されていました。名古屋港は日本有数の貿易港なので、こういったリスクも高いのです。2020年9月には、名古屋港で翅(はね)を持った女王アリやオスアリを含む1000個体以上のヒアリの集団(コロニー)が発見されてしまい、大きな話題になりました。

 

どうしてヒアリが恐れられるかというと、毒針でヒトを刺すだけでなく、経済的な被害や在来生態系への被害ももたらすからです。

ヒアリは、コロニーの中ではっきりとした役割分担をして暮らしています。コロニーの中で卵を産めるのは1個体か数個体の女王アリだけ。育児や採餌、巣の防衛は、働きアリが行います。このため繁殖効率が良く、女王アリが一日に1000個もの卵を産んで、数十万匹(!)のコロニーになることもあります。

ちなみに、働きアリはすべてメスです。コロニーが十分に大きくなると、翅をもった新しい女王アリとオスアリが産まれて巣から飛び立ち、交尾をして新女王が新しい巣を作ります。

 

…ということで、名古屋港で翅のある女王アリやオスアリを含むコロニーが見つかったことが、どれほどマズイかお気づきでしょう。(汗)

翅を持つ新女王が一度分散してしまったら最後、根絶することはほぼ不可能になるからです。そうならないように、名古屋港では(もちろん各地の港でも)水際での駆除や継続調査などの対策が行われています。

 

けれども、皆さんが公園や家の近くでアリを見た時に、必要以上に怖がったり無計画に駆除したりするのは賢明ではありません。

2018年、名古屋市内の公園や緑地でアリの分布の一斉調査が行われました。その結果によると、花壇や舗装路、樹林地といった様々な環境の、地表面、樹上、倒木の下、朽木の中など異なる場所から43種のアリが確認されました(うち、外来アリは2種)(西部・寺本 2020)。

普段私達の周りには多くのごく普通に見られる在来のアリが住んでいて、小型の生物の捕食者として生態系のバランスを保っているのです。

 

ヒアリの防除を考えるときには、このような在来アリとの関係を考えることも大切です。

例えば、アメリカ フロリダ州で、新たに侵入してきたヒアリの女王がコロニーを作る時に生き残ることができる条件が研究されています。いろいろな条件を整えて野外実験をした結果、ある期間以上生き延びられたケースはすべて、在来アリを予め取り除いた場合でした(Tschinkel & King 2017)。また、ヒアリの働きアリと競争関係にある在来のアリがいることも分かっています。

海外での研究結果が日本でもあてはまるとは言い切れませんが、このように在来アリがヒアリの定着を抑止する可能性があるという研究結果が報告されています。

 

今回の展示では、ヒアリの働きアリと女王アリの標本を展示しています。また、名古屋市で見られる身近な在来のアリの標本も展示しています。実物をぜひ見に来てください。

 

※ヒアリの識別は難しく、昆虫学の専門家に依頼する必要があります。ヒアリを見つけたと思ったら触らずに環境省の「ヒアリに関するお問い合わせ(http://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/attention/05_contact/index.html)」か市町村や都道府県の環境局へ連絡してください。

 

 

協力:環境省中部地方環境事務所、戸田尚希、名古屋市環境局、なごや生物多様性センター、名古屋港管理組合

主な参考・引用文献:

西部めぐみ・寺本匡寛(2020)名古屋市内で確認されたアリの分布ーなごや生きもの一斉調査2018 アリ編ー, 名古屋の生物多様性7: 45-49

Walter R. Tschinkel and Joshua R. King (2017) Ant community and habitat limit colony establishment by the fire ant, Solenopsis invicta, Functional Ecology 31, 955-964

「兵庫県尼崎市及び神戸市で見つかったヒアリについて(解説)」202126日現在, 兵庫県立人と自然の博物館HPhttps://www.hitohaku.jp/exhibition/planning/solenopsis2.html

 

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