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GGSS すごい石材 Vol.4「トラバーチン」

 

石好き学芸員の西本です。

 

オフィスビルの内壁などに、ベージュで縞模様が見える穴だらけの石材を見かけたことはないでしょうか。名古屋市科学館の近くでは、RT白川ビルや商工会議所ビルなどの内壁に使われています。

イタリア産のトラバーチンという岩石で、石材としては「トラベルチーノ・ロマーノ」と呼ばれています。ローマのコロッセオやトレビの泉なども、このトラバーチンでつくられています。

 

採掘されている場所は、ローマの東にあるティボリ(Tivoli)という街。映画「テルマエ・ロマエ」の舞台となった古代ローマ時代からの温泉地です。

温泉地でトラバーチンがあるというのは偶然ではありません。温泉がトラバーチンをつくったのです。

 

温泉に浸かっていると、湯の中にふわふわ白いものが漂っていたり、湯船に固い石のようなものが付着していたりすることがないでしょうか。地下から湧き出した温泉に溶け込んでいた成分が結晶となって現れたもので「湯の華」なんて呼ばれることもあります。

温泉(水)に溶けているカルシウムと二酸化炭素は、カルシウムイオン(Ca²+)と重炭酸イオン(HCO3-)のかたちで存在しており、温度低下や二酸化炭素が抜けることによって、次のような化学反応式で炭酸カルシウム(CaCO3)が沈殿します。

 

Ca2+ + 2HCO3- → CaCO3 + H2O + CO2

 

こうしてできた炭酸カルシウム(CaCO3)がメインの温泉沈殿物が「トラバーチン」です。

地表に湧き出した温泉の中にできた「湯の華」が、ゆっくり降り積もってものですから、大きな地圧を受けて押し固められることもなく、スカスカの多孔質で切り出しやすい硬さの岩石になりました。

 

ティボリのトラバーチンはおよそ12〜13万年前にできたと考えられており(Faccenna et al., 2008)、何万年もかけて積み重なって巨大なトラバーチンの丘ができたことになります。

トラバーチンに見られる縞模様は、木の年輪のようなもので、沈殿速度が速いときと遅いときが繰り返されてできると考えられています。

このため、1年ごとの化学成分の違いを調べて、過去の気候変動(Faccenna et al., 2008)や太陽活動周期(Xu, Miyahara, et al., 2019)を読み取ろうとする研究も行われています。

もちろん、トラバーチンを調べるだけでわかるような単純な話ではないのですが、過去の地球環境を知る手がかりとなることは間違いありません。

 

トラバーチンも”すごい石材”なのです。

 

トラバーチンの分析から太陽活動の歴史を探ろうとする研究については下記を参照ください。

 

武蔵野美術大学・弘前大学プレスリリース

「過去の太陽活動/宇宙線変動史を解明する新手法を開拓~白水台の石灰棚に残された過去の太陽活動変動~」

https://www.musabi.ac.jp/wp-content/uploads/2019/06/pr_20190620.pdf

 

 

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写真1(左):名古屋商工会議所の床に使われているトラバーチン

写真2(右):ローマ・コロッセオの柱(提供:Dr. Ruth SIddal)

 

3_M176 トラヴェルチーノナボナ.jpg  トラバーチン標本(中国雲南省白水台).jpg

写真3(左):トラバーチンの採石場(提供:矢橋大理石株式会社)

写真4(右):生命館2階に展示中のトラバーチン(提供:武蔵野美術大学 宮原ひろ子 准教授)

 

文献:

Faccenna, C., et al., 2008, Late Pleistocene depositional cycles of the Lapis Tiburtinus travertine (Tivoli, Central, Italy): Possible influence of climate and fault activity. Global and Planetary Change 63, 299–308.

Xu, H., Miyahara, H., et al., 2019, High-resolution records of 10Be in endogenic travertine from Baishuitai, China: A new proxy record of annual solar activity? Quaternary Science Reviews, 216, 34-46.

 

 

学芸員  西本 昌司

 

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