名古屋市科学館

TOP(科学について調べる) > 天文情報 > 天文ニュース > 月が大きく見えるわけ_2015

月が大きく見えるわけ_2015

moon_map.jpg

今年2015年の中秋の名月は9月27日、そしてその翌日の9月28日が満月でした。

   中秋の名月_2015

 

この9月28日の満月は、今年最も大きく見える満月です。そこに昨今、スーパームーンという言葉が使われるようになり「月が大きく見えるわけ」が少々混乱してきました。

 

今年、最も大きい満月ということ自体は天文学的に正しいのですが、28日に昇ってきたその月が大きく見えるのには、もっと別の(いつもどおりで、スーパーではない)理由があるのです。

    

 

m.018-crop.jpg私たち人間が、月や太陽を肉眼で見た場合、昇ったばかりや沈む直前で、低空にある月や太陽を大きく感じます。これは複数の心理学的な効果(錯視的な)がかさなったもので、何倍も大きく感じているという研究もあります。遠くの景色と見比べて大きく感じたり、空の大きさとの対比、見上げる角度による依存などさまざまな理由があわさっていますが、いずれにしろ昇ったばかりの太陽や月、沈みゆく太陽や月を私たちは大きく感じるようにできているようです。またそこそこの低空にあるときも、この効果はそれなりにあります。

 

これはとっても簡単な方法で確認できます。上の図は腕をいっぱいに伸ばした時の手の形と満月のみかけの大きさとの比較です。「みなさんの記憶にある月はどんな大きさでしたか?」とお聞きすると、ほとんどの方が2や3を選択されます。いかがですか? そして、本当の月でためしてみると、どんなに大きく見えるときも、腕をいっぱいに伸ばした時の小指ですっぽり隠れてしまって、信じられない! びっくり! となるのです。そしてまた腕を下ろして普通に月をご覧になると、再びじわっと大きく見えるのです。理屈を知ってても知らなくてもこの効果は同じ。感動の瞬間です。この大きくなり具合(感動具合?)は、その時の月の地平線からの高度、景色と月との関係、見る側の心理的状況などで変わりますが、小さくなることはないです。この月が大きく見える現象をぜひ楽しんでいただきたいと思うのです。

 

この現象は月(や太陽)の地平拡大と呼ばれます。昇ったばかりの月や、低空にあるときの月にはこの効果が大きく影響し、その影響の程度は周囲や見る方の状況にもよりますが、この心理学的な効果で、私たちは低空の月を見るとき、普段から何倍も大きく感じているのです。ただしこの効果は人の心によって起こるものです。カメラなどは感動しませんから、うわー、大きな月! と思って写真を撮ると思ったほど大きくは写りません。いろいろなところで見かける大きな月の写真は望遠レンズで写したものです。

 

2015年の中秋の名月の翌日、9月28日の月は、楕円軌道で地球に月が近い時に満月になります。このような現象はこの数年でスーパームーンと呼ばれるようになりました。もともとは占星術から発生したこの用語は、天文学的な定義もなく、イメージだけが先行して広がってしまいつつあります。ちなみに「その年の最大の満月」という事とも同義ではありません(年に複数回起き得るので)。この言葉が広まった経緯については、こちらが詳しいです「スーパームーンあれこれ」。また、国立天文台では「今年最大の満月」として、スーパームーンという言葉を使わずに解説しています(使う必要が無いからです)。もともと、近地点で満月になることは、大昔から普通にしょっちゅう起きていて、特別なことではありません。

 

m-crop.jpg

 

月と地球との距離は月の軌道が楕円なため、35万6400km~40万6700kmの間で変化します。上の図は地球・月の中心間の距離を正しい比率で描いてあります。9月28日10時46分に近地点を通る月の距離は35.7万kmです。ただし月は一ヶ月でこの楕円軌道上を周回しており、この程度の距離にはまさに毎月近づいたり遠ざかったりしています。それと満月が重なるのが珍しいというのですが、一周が30日として、30回(=30ヶ月)満月があれば、そのいずれかの夜は、距離が近い時の満月となります。さらにある程度の範囲を設ければ、それこそ毎年のように近い時の満月があるわけで、あまりスーパーではありませんね。中には、前後まで入れて3ヶ月連続でスーパームーン!というように、安売り? されている場合もあるくらいです。そして2015年の中秋の名月の翌日(9/28)の満月(28日午前11時51分)もその範疇に入っているというのです。

 

中秋の名月_2015.048.jpg

さて、その距離の変化から計算して図を作ってみました。2015年9月28日のように近地点での満月は最も小さく見える(遠い)月に比べて、1.14倍大きくなっています。これはもし、遠近の月が同時に並んでいれば肉眼でもわかるでしょうけど、実際には月はひとつ。普段の月(左図中央)と比べれば、さらに差は小さく1割増にも満たないです。そこで、写真に撮ったりして、別の時の月と比べることでやっと分かる程度の違いとなります。

 

ただしこれはこれで興味深い現象です。最近はコンパクトカメラでも月の形をきれいに撮ることのできるものがありますから、チャレンジしてみるのも良いでしょう。すでに2015年の最小の満月は終わってしまっていますから、9月28日に満月が撮れたら、その時の撮影条件を記録しておいて、2016年4月22日の次の最小の満月を同じ撮影条件で狙ってみてください。



IMG_1969_m.JPG身近なものでこの大きさの比率をみてみましょう。500円玉と10円玉をご用意下さい。500円玉が最も近い時の月、10円玉が最も遠い時の月の大きさ比率となります。 10円玉を500円玉の上に重ねてみて下さい。スーパームーン?効果による大きさの違いはこれだけです。それに対して、前述の心理学的効果がいかに大きいかは、腕をいっぱいに伸ばした時の小指と月との比較で体験していただけると思います。

 

  


このように、9月28日の月は、心理学的効果(ほとんど)と、スーパームーン?効果(少し)で大きく見えるでしょう。

 

なお、日本からは見られませんが、今回の満月は地球の裏側で皆既月食になりました。アメリカでは宵で月の出から、そしてヨーロッパでは月の入り=夜明け前の時間帯となります。イマドキですからインターネットの中継で楽しむのも良いでしょう。日本時間では28日の午前11時10分から12時24分までが皆既月食でした。月食の進行は世界共通タイミングですので、9月28日(日)のお昼前にネットやテレビでお楽しみになった方もあるでしょう。

(そして、もし、北米・南米、ヨーロッパ、アフリカなど今回、月食が見える地域の方がお知り合いでしたら教えてあげてください。お近くのプラネタリウムや天文台で現地の情報が得られるはずです。 20150928の月食のデータ(英語、pdf)

 

皆既月食が見られた地域のみなさんにとっては、これはすごいことです

 

ロサンゼルスのグリフィス天文台の特派員?からの写真が届きました

P1000222_m.jpg P1000254-crop.jpg

すごい人出と皆既中の赤い月です。今回は暗めの皆既月食でした


なにせ、今年最大の満月が皆既月食になったわけですから。こういうことにこそ「スーパームーン!」と言って欲しいですね。普段から大げさな表現を使っていると、本当にスゴイ時に使いにくくなってしまうのです。

 

 

IMG_3760○.JPG

前出のように、スーパームーン?効果だけで大きく見えるわけではなく、普段から低空の月は大きく見えています。さらに今宵は、今日は大きいですよっ! と聞いて見上げるという心理的効果もかなりあるでしょう。そして確かに、いや、普段と変わらないですよ、なんて言いにくいものです。かといって、違う理由で大きく見えているのに、まるで新たな現象が見つかったような煽り方はよくないと思うのです。

 

いずれにしろ、本物の月は素敵です。これをきっかけに、月を愛でて、ありのままの美しさを感じていただけたらうれしいです。

 

300mm望遠レンズ(相当)で撮影した昇ったばかりの赤い月

Canon EOS Kiss-D 200mm F2.8 1/6秒 ISO100
2005年9月18日 18:36 距離 36.2万km

 

▲ページ先頭へ