科学について調べる > 学芸員NOW > 地球上の雨は、どこでどれくらい降っている?
こんにちは。宇宙から地球をみるのが大好きな学芸員の小林です。
みなさんは、雨が降り出しそうなときに「雨雲レーダー」を見たことはありますか? これは、現在の雨雲の位置や強さを表したもので、「今すぐ洗濯物を取り込む必要があるか?」などを判断するためのとても便利な情報です。地上にある観測所が電波(マイクロ波)を空に向けて発射し、雨粒にあたって跳ね返ってきた電波をキャッチして、雨の強さや位置を調べているのです。ただし、電波は障害物や地球の丸みの影響で、遠くまで届かないことも。そこで、日本全国にある約20か所の観測所が力を合わせて、日本全国の雨のようすが詳しくわかるのです。
このやり方を拡大して、地球全体にたくさんの観測所を設置すれば、地球上の雨雲の動きをつぶさに把握することができるのですが、、、地球上の約70%が海。また、さまざまな国に観測所を置くのも大変です。
そこで、登場するのが「人工衛星」! 地球のまわりを飛ぶ人工衛星から電波を地球に向けて発射し、跳ね返ってきた電波をとらえることで、地球上の雨の様子を把握できます。ただし、観測所が地球上空を高速で移動しているので、技術的にはとても大変です。そんな困難に立ち向かったのが熱帯降雨観測衛星「TRMM」です。1997年、世界で初の降雨レーダーを備えた人工衛星となりました。その後を引き継いだのが「GPM主衛星」で、2つの波長の電波を使うことで、弱い雨から強い雨まで、雨雲の中の降水を立体的に正確に観測できるすごい人工衛星です。ただし、1台の人工衛星では、観測できる範囲は限られてしまいます。地球を1周するのに約90分で、1時間で観測できる範囲は、地表全体のわずか1%なんです。
写真:名古屋市科学館 理工館6階 サテライトステーション
そこで、ほかの人工衛星が力を合わせます。
当館の理工館6階のサテライトステーションでは、いろんな人工衛星が地球の上空を飛んでいるのがわかります。その中の、太陽同期準回帰軌道の人工衛星の水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)は、マイクロ波を観測することで大気中の水蒸気量や海面の水温などを測定しています。そのマイクロ波のデータと、GPM主衛星に搭載された降雨レーダーのデータを組み合わせることで、「しずく」のデータからも比較的正確に雨を観測することができます。マイクロ波を観測している人工衛星は、その他にもたくさんあり、約10台を組み合わせることで、1時間で地球の約4割をカバーできます。さらに、気象衛星「ひまわり」に代表される世界の静止気象衛星の赤外放射計のデータを使って、マイクロ波を搭載する人工衛星が1時間以内に観測できない範囲を補完することで、世界中に降った雨の情報(衛星全球降水マップ:GSMaP (Global Satellite Mapping of Precipitation))を手にいれることができます。
図1:黄色で色付けされた範囲は、GSMaPで使用されているマイクロ波放射計が1時間以内に観測する範囲の一例です。(C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)
図2:衛星全球降水マップ「GSMaP」で得られた2020年7月8日の雨 (C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)
このようにGPM主衛星のデータをベースに、たくさんの人工衛星の観測データを組み合わせることで、地球上のどこでどれくらい雨が降っているかを、ほぼリアルタイムで知ることができるようになりました。地球上の雨の降る量を知ることは、今の地球の状況をより正確に知ることになり、それは未来への予測にも役立ちます。ご自身のスマホなどから見ることができるので、地域毎の雨の降り方の違いなどをみながら、地球規模の水の循環に思いを巡らせてみてください。
(→GSMaPへのリンク https://sharaku.eorc.jaxa.jp/GSMaP/index_j.htm)
学芸員 小林修二