科学について調べる > 学芸員NOW > GGSS すごい石材 Vol.3「幡豆石(はずいし)」
石好き学芸員の西本です。
公式YouTubeチャンネルのロケで蒲郡に行ってきました。
やはり、フィールドに出るとテンション上がりますね。
蒲郡には何度も行っていっていますが、それでも行くたびに新たな発見があるのですから不思議なものです。
今回は、幡豆石についてゴリゴリ深掘りです!
動画をまだ見ていない方はこちら→ https://www.youtube.com/watch?v=caZgWYOTN9k
名古屋城(写真1)のみどころは何と言っても石垣です!(大まじめ!笑)
石材の種類が多く、石好きにとっては、 石垣を見るだけで楽しめます。
名古屋城の石垣に使われている石材で、最も多く使われているのが 「幡豆石(はずいし)」(西本, 2020)。
愛知県西尾市の幡豆地域をはじめ、蒲郡市や南知多町篠島など、三河湾沿岸に分布しており、石を切り出すため楔(矢)を打込む穴(矢穴)をあけた跡が残った石(矢穴石) が、今でも海岸で見られます。(写真2〜4)
歴史的にもおもしろい幡豆石ですが、科学館ですから科学的に見ていきましょう。
幡豆石は、 花崗岩のなかま(花崗岩類)として一括されてしまうことが多いのですが、厳密には、無色鉱物は石英と斜長石だけで、カリ長石をほとんど含まない「トーナル岩」にあたります。
黒っぽい鉱物 (黒雲母・角閃石)が多めの花崗岩のように見えるでしょう。
三河湾沿岸に分布するトーナル岩は、これまで、豊田市神原~下山地区に分布する「神原トーナル岩」に相当する岩体と考えられてきました。(領家研究グループ, 1972; 神原トーナル岩のボーリングコアを理工館6階に展示しています。)
その形成年代は、約9500万年前(CHIME年代、Nakai and Suzuki, 1996)~ 6520万年前(Rb-Sr, Tsuboi and Asahara, 2009)とされ、蒲郡周辺のものは、深さ20kmより深いところでできたと推定されています(桝本ほか, 2007)。
地下深部で生まれたトーナル岩のマグマが貫入してきた現場を観察できるのが、蒲郡市「とよおか湖」にある露頭です。この付近より海側の地質はトーナル岩(幡豆石)ですが、山側の地質は片麻岩という堆積岩が熱と圧力で再結晶した岩石です。
つまり、トーナル岩と片麻岩の境界にあたり、もともとマグマだまりが堆積岩と接していた部分なのです。
ですから、この露頭観察は、地下深部で起こったマグマ侵入事件の現場検証をしているようなものなのです。
写真1(左):名古屋城の石垣
写真2(右):名古屋城石垣に使われている幡豆石(神原トーナル岩)
写真3(左):南知多町篠島の矢穴石
写真4(右):蒲郡市西浦半島の矢穴石
写真5:蒲郡市とよおか湖の露頭
文献:
Nakai, Y. and Suzuki, K., 1996, CHIME monazite ages of the Kamihara Tonalite and the Tenryukyo Granodiorite in the eastern Ryoke belt of central Japan. Jour. Geol. Soc. Japan. 102, 431-439.
桝本洋輔・榎並正樹・壷井基裕,2007,中部地方領家帯に産するトーナライトの固結深度の推定.日本地質 学会第 114 年学術大会講演要旨,201
西本昌司, 2020, 名古屋城石垣に使われている石材の岩石種. 地質学雑誌 126 (7) 343–353.
Tsuboi, M. and Asahara, Y. 2009, Initial 87Sr/86Sr ratio heterogeneity in Kamihara Tonalite, Ryoke belt, southwest Japan: Evidence from strontium isotopic analysis of apatite. Jour. Mineral. Petrol,104, 226-233.
領家研究グループ, 1972, 中部地方領家帯の花崗岩類の相互関係. 地球科学, 26 (5), 205-216.
動画で訪れた「蒲郡市生命の海科学館」の
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学芸員 西本昌司