名古屋市科学館

TOP(科学について調べる) > 天文情報 > 天文ニュース > 土星の環が消える?

土星の環が消える?

2025年4月10日からプラネタリウム一般投影「土星の環が消えた!」が始まりました。プラネタリウムのさまざまな機能を使って土星の環の消失を再現しています。お見逃しなく!

 

SaturnRPC_0.jpeg

土星の環は年によって見え方が違います。2017年は帽子のようになっていますし、2024年は棒のようになっていますね。これは地球から見た時の環の見かけの傾きが変わるからです。

 

SaturnRPC_1.jpeg

土星は太陽の周りを29.5年で回っています。その軌道面に対して図のように自転軸を26.7°傾けて回っているので、地球の四季と同じような現象が起きます。そしてざっと15年に一度、私たちは環を真横から見ることになります。この時、土星の環はとても薄いのでほとんど見えなくなります。この現象は一般に「環の消失」と呼ばれています。

 

SaturnRPC_2.jpg

左は土星の環のほうから太陽や地球を眺めた図です。中央横にほぼ一直線に見えている土星の環に対して太陽(黄色)の周囲を回る地球(水色)の公転面が傾いています。そして太陽の周りを地球が公転することによって、環に対しての上下方向(北南方向)にも地球の位置の変化があります。

そこで太陽が真横から照らす場合と地球が真横から見る場合と2通りの平面通過があり、太陽が土星の環の平面を通過する(真横から照らす)タイミングと、地球が環の平面を通過する(真横から見る)タイミングにはズレがあります。

さらにその間のタイミングでは興味深い現象がおきます。図の中央のタイミングでは太陽がやや上(北)から環を照らしているのに対して、地球は環の下(南)から見上げているという状態になっています。タイミングによっては地球と太陽の上下が反対の場合もあります。今回の消失では、3月24日から5月7日の間が、太陽が上(北)側から照らし、地球は下(南)側から照らす、いわゆる裏面照射の期間になります。

土星の環は板のようなものではなく、氷や岩石のかけらがたくさん回っています。そこで環の面を透過する光やかけらで散乱される光の効果があって、真横に太陽や地球が位置したとしても厳密には環が全く見えなくなるわけではありません。また太陽と地球が上下反対側に位置する裏面照射期間の見え方も興味深いです。

  

M_25-04IP.001.jpeg

1990年から2048年までの土星の環の平面を基準にした太陽と地球の位置を図にしました。それぞれのタイミングで太陽や地球が環の平面の横切り方を比較してみましょう。以下、太陽や地球の位置について土星の環の北側を上、南側を下と表記します。また太陽と地球が環の上下に別れる期間を裏面照射期間とします。

太陽は土星の環の平面を約15年に一度ずつ通過します。地球は土星の環から見て傾いた面で公転しているので、その分だけの振れ幅があります。そこで、15年ごとのタイミングにおいて、地球の平面通過の回数が変わります。最大は太陽1回、地球3回の合計4回。最小は太陽1回、地球1回の合計2回。あとはその太陽通過と地球通過が短い間隔で起きてしまう実質の合計1回通過があります。さらにその時に土星が夜空に見えているかどうかが大きく影響します。


1995年の通過時には4回の通過のうちの前3回を好条件で比較することができました。5月22日までは太陽も地球も土星の環の平面の上にいます。5月22日に地球が環の平面を横切り8月11日までは太陽が上、地球が下の裏面照射期間になりました。8月11日の2回目の地球の通過を過ぎると再び太陽も地球も上になりました。11月20日には太陽が平面を通過し、太陽が下、地球が上となりました。翌1996年2月12日の地球の通過で一連の環の消失現象が終わりました。1995年時点の名古屋市科学館webページでの土星の環の消失情報はこちらです(復刻のため土星関連部分以外はリンクが切れています)。

 

2009年は、太陽が1回通過、地球の通過も1回。それも1ヶ月離れていないという残念な実質1回通過でした。さらに土星の位置が太陽の方向に近いため観測条件はよくありませんでした。

 

今回、2025年の通過は厳密には2009年と同じく太陽、地球それぞれ1回の通過です。3月24日はほぼ太陽の方向に土星がいるので悪条件です。この3月24日から5月7日までの期間は、太陽が上、地球が下の裏面照射期間となります。太陽が真横に位置する5月7日は明け方の空で観測ができます。一方、11月25日頃にはわずか0.37°まで地球が近づきますので「ほぼ消失」と言っていい状態になります。さらに土星が宵空に見えている時期ですので、観望会という意味ではかなりの好条件となります。

この「ほぼ消失」現象は時分秒で変化するものではなく、ゆっくり変化します。国立天文台暦計算室の惑星の自転軸ページでの計算によると11月21日の3時から11月28日15時(JST)までの期間で土星の惑心緯度が0.37°の状態が続きます。ですのでこのほぼ消失現象を楽しむには「11月下旬の天気の良い日」でまったく問題ありません。

 

ある意味、理想的な通過だった1995年に比べると2025年は天体の都合的には条件が劣りますが、それを補って余りあるのが観測機材のレベル。この30年で大いに向上しているので、さまざまなタイミングでの画像を楽しむことができそうです。

 

そして気が早いですが、2039年の通過は1995年以来の合計4回通過となります。裏面照射期間も2038年10月16日から2039年1月23日(太陽下・地球上)と4月2日から7月10日(太陽上・地球下)の2期間あります。お楽しみに。

データ提供:国立天文台暦計算室

 

****************************************

以下は、天文教育関係者向け経緯とデータです。

****************************************

上の記事のグラフを作成するにあたって、土星の環の傾きの長期計算データを探しました。データ計算の定番であるJPL Horizons Systemも含めて、角度が30°以上になるものが多かったです。

たとえば、下記ページ内の「土星から見た太陽と地球の緯度」のグラフ。土星の環の傾きは26.7°ですので、「?」となります。ただしこれは定義の違いなのです。

https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/topics/html/topics2025_1.html

https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/CFC7C0B12FB4C4A4CEBEC3BCBA.html

26.7°はざっくり言うと外から見た土星の環の傾きです。当該ページ中の「土星から見た太陽と地球の緯度」は31.7°となります。これは惑心緯度と惑理緯度の違いです。土星本体の断面が楕円形状なので、その分の違いが出てくるのです。

詳細は下記ページの 地球の形:地心緯度と地理緯度の項目を参照ください。

https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/C3CFB5E52FB7D0C5D9A4C8B0DEC5D9.html

 

ただし、土星の環の消失のような現象においては、土星面から太陽や地球を眺めるのではなく、中心からの角度で考えますので、惑心緯度のほうがわかりやすいです。さらに最初から26.7°になるサイトもあります。https://pds-rings.seti.org/

このあたりは、下記リンク先、ほんのり光房の久保庭敦男さまに議論をさせていただきました。ありがとうございました。

https://kuusou.asablo.jp/blog/

 

それを踏まえて、国立天文台天文情報センターの遠藤 勇夫さんにこの件をお伝えしました。その結果は、下記です。

 

・暦Wikiに惑心緯度のグラフを追加
環との関係は惑心緯度のほうがわかりやすいので、惑心緯度を用いたグラフも示します。
https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/CFC7C0B12FB4C4A4CEBEC3BCBA.html#notefoot_1

 

・トピックスに注釈を追加
https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/topics/html/topics2025_1.html#CHILD_LINKS3

 

・惑星の自転軸に惑心緯度を追加
https://eco.mtk.nao.ac.jp/cgi-bin/koyomi/cande/planet_spin.cgi

 

遠藤さまや関係のみなさまの迅速な対応に深く感謝いたします。

  

さらに天文教育関係者向けに1990年から2060年までのデータを計算していただき、公開の許諾をいただきました。ありがとうございました。未来に向けて有効に活用していただけることを願っております。

データ提供:国立天文台暦計算室 
データの著作権は国立天文台暦計算室にあります。再配布や博物館の教育活動以外の営利目的の利用を禁じます。

 

 

期間別計算データ SaturnRPC_xls.zip

 

リンク先のzipファイルを解凍するとエクセル形式(.xls)のファイルが4つ出てきます

国立天文台>暦計算室>暦象年表>惑星の自転軸
https://eco.mtk.nao.ac.jp/cgi-bin/koyomi/cande/planet_spin.cgi

の計算可能期間を過去未来に大幅に延長したものになります。
時刻系はJST=中央標準時=UT+9hで出力されています。
項目の詳細は下記です(上のリンク先からのコピペです)


B0、L0は地球から見た惑星面の中点X0の惑星面緯度および惑星面経度です。Bs、Lsは太陽から見た惑星面の中点Xsの惑星面緯度および惑星面経度です。
P、Psは地球から見た惑星の自転軸(北側)とXsの向きで、天球の北より東に傾いているものを+、西に傾いているものを-としています。
iは位相角、kは輝面率です。
Vは見かけの等級で、惑星の明るさを表します。
B'0、B'sはそれぞれX0、Xsの惑心緯度です。
λsは惑星の黄道における太陽黄経です。

 

 以下は、名古屋市科学館が上記データを用いてグラフにしたものです。文字など最低限にしていますので、適宜加工してお使いください。

SaturnRPC_1990-2060.jpg

1990年から2060年の土星の環の平面に対する太陽と地球の角度 
 

SaturnRPC_1995_2009_2025_2039_2054.jpg

1990年から2060年の間に5回起きる土星の環消失部分。
左から、1995、2009、2025、2039、2054(太陽通過年)。

 

下記の日付時刻一覧と対応させてご覧ください。

1990年から2060年での5回の土星の環の消失現象の日付時刻一覧(JST)
E=地球の通過 S=太陽の通過 土星の太陽からの離角 E,W

 
E 1995/05/22 16h N→S 68°W
E 1995/08/11 07h S→N 144°W
S 1995/11/20 01h N→S 111°E
E 1996/02/12 10h N→S 31°E

 

S 2009/08/11 12h S→N 32°E
E 2009/09/04 24h S→N 11°E

 

E 2025/03/24 04h N→S 10°W
S 2025/05/07 01h N→S 48°W

 

E 2038/10/16 03h S→N 29°W
S 2039/01/23 06h S→N 124°W
E 2039/04/02 05h N→S 163°E
E 2039/07/10 03h S→N 67°E

 

E 2054/05/06 13h N→S 52°W
E 2054/08/31 19h S→N 163°W
S 2054/10/10 18h N→S 154°E
E 2055/02/01 19h N→S 42°E

▲ページ先頭へ