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二酸化炭素地中貯留実験

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展示作品の狙い

 地球温暖化抑制対策として、大気中二酸化炭素濃度の上昇を抑制するため、化石消費量削減(省エネルギー、新エネルギー)や植林による吸収源拡大のほか、CO2分離回収・貯留(CCS =Carbon Dioxide Capture and Storage)技術が注目されています。その中で最も実用的とされているのが二酸化炭素地中貯留です。
 そこで不思議なのが、なぜ気体を地下に溜めることができるのかということです。それを観察できるようにしてみたのが、この展示です。粒度の違う2種類のガラスビーズで地層モデルをつくり、下の方からガスを注入できるようになっています。

知識プラスワン

【注入されたガスの動きを観察しよう】
 水を含んだ地層(帯水層)中に注入されたガスは、周囲より軽いため、浮力により上昇しようとします。しかし、堆積物の粒子どうしの隙間に、気泡が引っかかったように留まってしまうことがわかります(残留ガス)。せまい隙間で、気泡が大きくなれず、浮力が十分大きくならないためです。これは、水の中に沈めたスポンジの中に空気が閉じこめられるのと似ています。
 しかし、ガスは次々と注入されるので、気泡がいくつも連結した堆積物の粒子の隙間を縫うようにして上昇していきます。その際、粗い粒子の地層中だとたやすく上昇し、細かい粒子の地層(不透水層)の下に滞留することがわかります。とくに、地層が上に湾曲している部分(背斜構造)の下で滞留しやすくなっています(構造トラップ)。
 さらに、ガスを注入しつづけると、このような構造のところにガスが集まって大きな浮力を生じ、突然、不透水層を抜けて上昇します(ブレイク)。つまり、このような場所に貯留できるガスの量には限度があると言えます。しかし、ガスが全部抜けてしまうのではなく、一定量はトラップされ続けることもわかります。
【貯留された二酸化炭素は時間をかけて溶けていく】
 二酸化炭素の場合、しだいに地下水に溶解していきますので、その分も地下に隔離したことになります(溶解トラップ)。その二酸化炭素は、イオンとなって地下水中を時間をかけて移動し、いずれは方解石などの鉱物(炭酸塩)として沈殿します(鉱物トラップ)。そうなれば、大気中に戻ってくることはまずありません。
 このように、二酸化炭素地中貯留には、残留ガストラップ、構造トラップ、溶解トラップ、鉱物トラップの4つのメカニズムがあり、この順に長期にわたる地下貯留できるようになりますが、トラップに要する時間も増えていきます。そこで、地質構造などを考慮しながら、それぞれのメカニズムを組み合わせた貯留方法が検討されています。
【もともと流体が溜まっていたところに二酸化炭素を溜める】
 二酸化炭素の地下貯留方法には、帯水層(地下水で満たされている地層)に注入する方法以外にも、いくつかの方法が考えられています。もともと石油や天然ガスといった流体(液体や気体)が貯留されていた場所は、二酸化炭素も貯留しやすいと考えられます。そこで、枯渇した石油・天然ガスに注入する方法が考えられています。採取量が減少してきた油田や天然ガス田において、石油や天然ガスを効果的に回収するため、二酸化炭素を圧入することで資源回収と貯留を同時にしてしまおうというアイデアです。このように、貯留メカニズムを調べることで、地下地質・構造に応じた効果的で安全な貯留方法が研究されているのです。
 二酸化炭素地下貯留は、地球温暖化を根本的に解決する手段ではありませんが、当面の二酸化炭素排出量を減らすため有効だと考えられています。また、石油掘削技術などで蓄積された技術を応用できるので、最も実用的で即効性の高い技術として期待されています。このため、モデル実験を実施するとともに、ボーリング調査などと組み合わせることにより、二酸化炭素地中貯留技術の開発が進められています。

 


【 参考資料 】

参考資料
IPCC(2005) The IPCC Special Report on Carbon dioxide Capture and Storage (CCS).
Takahashi, K., Y. Yamada, S. Murata, K. Baba, T. Matsuoka (2006) An experimental study of residual gas in aquifer. Proceedings of the 8th SEGJ International Symposium, p. 448-451.
文 学芸員 西本昌司

 

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