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小林誠・益川敏英

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展示作品の狙い

 小林誠氏と益川敏英氏は、「CP対称性の破れの起源の発見 」によりノーベル物理学賞を2008年に受賞しました。2人は名古屋市立の小中学校出身で、市内の高校、名古屋大学と進学した名古屋にとてもゆかりのある人物です。この展示では、2人が研究者を目指したきっかけや、受賞した研究内容について紹介しています。
 展示はハイユニットと呼ばれる展示と、2つの島展示から成っています。ハイユニットでは、受賞者と受賞内容について紹介し、島展示は受賞内容と関連する体験展示になっています。

知識プラスワン

【坂田研究室】
 2人が出会ったのは、名古屋大学理学部の坂田研究室でした。坂田研究室では、研究や教室運営の上で、教員と学生ができるだけ対等になるような基本方針、研究室民主主義がとられていました。科学の研究では教授も学生も同等で、上下なく議論をすることができる自由な雰囲気に満ちていました。その中で、2人は議論を重ねていきました。
【受賞研究について】
 2人が研究し論文を発表したのは1973年。ノーベル賞を受賞したのは2008年。その間、35年もの月日が経っています。どうして、そんなに時間が必要だったのでしょうか。その大きな理由の1つは、2人が発表したことが、正しいかどうかを精密に検証されなければならなかったからです。
 2人の研究は、1964年に発見された現象「CP対称性の破れ」の解明でした。その現象についてここでは詳しく述べませんが、当時の物理学では理解できない難問でした。2人はどうしてCP対称性が破れるのかを研究し、それまでにない理論を考えました。その理論では未発見のクォークが存在することでCP対称性が破れるとしていました。そして、発表から22年後の1995年に、2人が予言したクォークが全て発見されました。しかし、それだけでは、2人の理論が正しいとは言えません。さらに、2人の理論どおりのCP対称性の破れが実験で確認できないと、正しいとは言えないのです。1981年にB中間子という粒子において、2人の理論通りのCP対称性破れが起きる可能性が発表されました。そして、それを確認するために、日本の研究所とアメリカの研究所が競って実験を行いました。2001年に日本の研究所が確実な証拠をつかみ、すぐにアメリカの研究所も同じ実験結果を得たことから、2人の理論が正しいことがついに証明されました。それにより、2人はノーベル賞を受賞することになったのです。
 益川さんは、受賞直後に、ノーベル賞受賞よりも自分たちの理論が正しかったと研究者仲間に言われることの方が嬉しいと語りました。研究者として偽らざる気持ちだと思います。

【現象は数式で表せる】
 2人の研究は、CP対称性の破れという現象を、クォークが4種類では説明できなくて、6種類あれば説明できるとしたことにあります。4種類ではダメで、6種類なら大丈夫ということを理解するためには、数学の力が必要になります。
 また、ノーベル賞級の難問ではなくても、ボールを最も遠くに投げるには、どの角度で投げたらよいのかという問題でも、それを解くには数学の力が必要です。逆に数学をきちんと扱うことができれば、多くの物理現象を解き明かすことができるようになります。
 この展示は、物理現象と数学は、とても密接で大切な関係にあることを知ってもらうことを目的にしています。
 地球と月とでは重力が違うので、同じ速さでボールを投げても、月の方が遠くまで飛びます。月の重力は地球の6分の1なので、地球と同じ距離を飛ばすためには、投げる速さも6分の1で良いのでしょうか? ぜひ、展示で試してください。

【物質は何からできているか】
 2人の研究は、物質は何からできているのかを探る研究でもありました。すべての物質は、『火、空気、水、土』の4元素から出来ているという古代ギリシア時代の話を聞いたことがあるかと思います。そして、現代では、素粒子と呼ばれるものが、物質をつくる基本の粒子と考えられています。
 この展示品ではボタンを押すたびに、映像が2倍に拡大されていき、物質が何からできているのかを見ることができます。どんどん拡大していくと、細胞・DNA・分子・原子核が見えてきます。そして陽子までたどり着いたところで映像は終わりになります。終わりということは、陽子が基本の粒子である素粒子かというと、残念ながら違います。それならば、陽子の中にあるものを見てみたいものですが、陽子の中の物質をそれ単独でとりだすことはできないのです。陽子の中には、クォークという名の素粒子が3個入っていることは分かっているのですが、クォークだけを取り出して見ることはできないので、映像はそこで終わりになっています。
 私たちの身体を作る物質は、原子がつながってできていて、原子は陽子・中性子・電子からできています。中性子もクォーク3個からできています。電子は、それそのものが素粒子の1つです。素粒子には17種類があります。

 


【 参考資料 】

クォーク第2版(1998)南部陽一郎(講談社)
消えた反物質(1997)小林誠(講談社)
現代の物質観とアインシュタインの夢(1995)益川敏英(岩波書店)
小林・益川理論の証明(2009)立花隆(朝日新聞出版)
名古屋ノーベル賞物語(2009)中日新聞社社会部(中日新聞社)
いっしょに考えてみようや(2009)小林誠、益川敏英(朝日新聞出版)

 

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