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学芸員のおすすめ展示:ストロマトライト 前編

 

みなさん、こんにちは!新人学芸員の片田です。

 

私は古生物学を専門としています。そこで今回は私の専門に関連したおすすめ展示を前後編でご紹介します。

前編のおすすめ展示は、生命館2階に展示されている「ストロマトライト」です。この展示には私たちが生きていくのに必要不可欠な酸素の秘密が隠されています。

 

ストロマトライト.JPG

写真1 生命館2階「ストロマトライト」

 

写真1を見てください。この岩石が展示されているストロマトライトです。写真に写っている定規が15cmですので結構大きいですよね。高さが新聞の縦の長さと同じくらいです。写真を眺めると、表面に模様があるのに気が付きます。よく見えるように拡大してみましょう。

 

 ストロマトライト拡大Ver.2.png ストロマトライト拡大赤線ありVer.2.png

写真2 ストロマトライトの拡大写真

 

拡大したものが写真2(左)です。じっくり観察してみてください。薄い層が積み重なっていることや層の色に違いがあること、層の厚みに違いがあることなど興味を引かれる発見が沢山あると思います。今回は薄い層が積み重なっていることをピックアップしてお話します。

ん? 薄い層がどれのことか分からない?…ご安心ください!写真2(右)のはっきりと層が分かる部分に赤線を引いておきました。よく見れば赤線を引いた層以外にも層が見つけられると思います。

実はこの層、生物の活動によって作られたものなのです。生物と言っても恐竜のような大きな生物ではなく、顕微鏡でないと見えないような生物です。その名もシアノバクテリア。シアノバクテリアは地球上で初めて光合成によって酸素を作り出し、地球の大気組成を激変させた細菌です。

 

突然ですが、皆さんはお風呂場や洗面台にぬるぬるが発生してしまったことはありませんか?(私はあります。)

あのぬるぬるはバイオフィルムといって、あの中には沢山の微生物が生きているのです。ストロマトライトの表面も洗面台のぬるぬると似たようなもので、シアノバクテリアなどの沢山の微生物の住処となっています。シアノバクテリアは、ストロマトライトの表面で光合成を行って酸素を発生させます。この時、シアノバクテリアはねばねばした液体を体の外に出します。そのねばねばに砂粒がくっついて砂の層が出来ます。これを何度も繰り返してストロマトライトの縞模様が作られます。

しかし、くっついただけの砂粒ではまだ岩石とは言えません。

少し話は変わりますが、崖の断面などでみられる地層のしましまは、上にたまった砂などの重さで押し固められたり、砂粒と砂粒の間が別の物質で埋まってくっついたりして、長い時間をかけて硬い岩石に変わって出来ます。ストロマトライトのしましまも石灰分(炭酸カルシウム)で固まって晴れてしましまは岩石となり、ずっと後の時代までしましまが保存されるようになります。シアノバクテリア自体は化石には残っていませんが、シアノバクテリア達の活動の記録や流れてきた砂粒の量、種類などがしましまに表れる、つまり、過去の環境がストロマトライトの層となって記録されているのです。これを利用して層の化学的、鉱物学的な性質を丹念に調べることで、過去の地球の姿を明らかにしようと研究が行われています。

さて、現在でもオーストラリアやバハマなど、限られた場所ではストロマトライトが作られています。(見に行きたい!)

現在のストロマトライトの研究から明らかになった成長速度は年に平均0.4mmと非常にゆっくりです。人が80年生きたとして、人生をかけて作ることの出来るストロマトライトはたった3.2cmという計算になります。こう考えると、展示室のストロマトライトを作るのにはどれだけ長い時間がかかったことでしょう。長い長い時間をかけて作られてきたストロマトライト…いやぁ、ロマンの塊ですね!胸が熱くなります。

 

後編では、シアノバクテリアの光合成と私たちの暮らしについてお話します。後編もお楽しみに!

 

 

学芸員 片田はるか

 

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