名古屋市科学館

TOP(科学について調べる) > 天文情報 > 天文ニュース > 月が大きく見えるわけ_2014

月が大きく見えるわけ_2014

moon_map.jpg 2014年8月11日は満月。名古屋では、薄雲ごしにかろうじて、まんまるの月が見えました。9月8日の中秋の名月もきれいな月が見えると良いですね。

 左の図は肉眼やオペラグラス、双眼鏡などで見えそうな地形をまとめたものです。月が南の空に昇った時に上下関係が肉眼で見たままになるようにしてあります。

 なお、月が昇る時刻は地域によってすこしづつ違います。国立天文台の今日のこよみページで、地域をメニューで変えて(初期値は東京です)ご確認下さい。

 

   

m.018-crop.jpg 私たち人間が、月や太陽を肉眼で見た場合、昇ったばかりや沈む直前で、低空にある月や太陽を大きく感じます。これは複数の心理学的な効果(錯視的な)がかさなったもので、何倍も大きく感じているという研究もあります。遠くの景色と見比べて大きく感じたり、空の大きさとの対比、見上げる角度による依存などさまざまな理由があわさっていますが、いずれにしろ昇ったばかりの太陽や月、沈みゆく太陽や月を私たちは大きく感じるようにできているようです。またそこそこの低空にあるときも、この効果はそれなりにあります。

 

 これはとっても簡単な方法で確認できます。上の図は腕をいっぱいに伸ばした時の手の形と満月のみかけの大きさとの比較です。「みなさんの記憶にある月はどんな大きさでしたか?」とお聞きすると、ほとんどの方が2や3を選択されます。いかがですか?

 そして、本当の月でためしてみると、どんなに大きく見えるときも、腕をいっぱいに伸ばした時の小指ですっぽり隠れてしまって、信じられない! びっくり! となるのです。そしてまた腕を下ろして普通に月をご覧になると、再びじわっと大きく見えるのです。理屈を知ってても知らなくてもこの効果は同じ。感動の瞬間です。この大きくなり具合(感動具合?)は、その時の月の地平線からの高度、景色と月との関係、見る側の心理的状況などで変わりますが、小さくなることはないです。この月が大きく見える現象をぜひ楽しんでいただきたいと思うのです。

 この現象は月(や太陽)の地平拡大と呼ばれます。昇ったばかりの月や、低空にあるときの月にはこの効果が大きく影響し、その影響の程度は周囲や見る方の状況にもよりますが、この心理学的な効果で、私たちは低空の月を見るとき、普段から何倍も大きく感じているのです。 

 ただしこの効果は人の心によって起こるものです。カメラなどは感動しませんから、うわー、大きな月! と思って写真を撮ると思ったほど大きくは写りません。いろいろなところで見かける大きな月の写真は望遠レンズで写したものです。

 

m-crop.jpg


 2014年8月11日の月は、楕円軌道で地球に月が近い時に満月になりました。このような現象はこの数年でスーパームーンと呼ばれるようになりました。この言葉の広がりについては、こちらが詳しいです「スーパームーンあれこれ。また、国立天文台では「今年最大の満月」として、スーパームーンという言葉を使わずに解説しています。もともと、近地点で満月になることは、大昔から普通にしょっちゅう起きていることです。

 月と地球との距離は月の軌道が楕円なため、35万6400~40万6700kmの間で変化します。8月11日未明に近地点を通る月の距離は35.7万kmです。ただし月は一ヶ月でこの楕円軌道上を周回しており、この程度の距離にはまさに毎月近づいたり遠ざかったりしています。それと満月が重なるのが珍しいというのですが、一周が30日として、30回(=30ヶ月)満月があれば、そのいずれかの夜は、距離が近い時の満月となります。さらにある程度の範囲を設ければ、それこそ毎年のように近い時の満月があるわけで、あまりスーパーではありませんね。中には、前後まで入れて3ヶ月連続でスーパームーン!というように、安売り?されている場合もあるくらいです。2014年の中秋の名月の翌日(9/9)の満月もその範疇に入っているらしいです。上の図は地球・月の中心間の距離を正しい比率で描いてあります。

 

hikaku.053.jpg さて、その距離の変化から計算して、2014年8月11日のように近地点での満月は最も小さく見える(遠い)月に比べて、1.14倍大きくなっています。これはもし、遠近の月が同時に並んでいれば肉眼でもわかるでしょうけど、実際には月はひとつ。普段の月(左図中央)と比べれば、さらに差は小さいですね。そこで、写真に撮ったりして、別の時の月と比べることでやっと分かる程度の違いとなります。ただしこれはこれで興味深い現象です。


 

IMG_1969_m.JPG 身近なものでこの大きさの比率をみてみましょう。500円玉と10円玉をご用意下さい。500円玉が最も近い時の月、10円玉が最も遠い時の月の大きさ比率となります。 10円玉を500円玉の上に重ねてみて下さい。スーパームーン?効果による大きさの違いはこれだけです。それに対して、前述の心理学的効果がいかに大きいかは、腕をいっぱいに伸ばした時の小指と月との比較で体験していただけると思います。

 

  

IMG_3760○.JPG

 このように、エクストリームスーパームーンとまで言われた8月11日の月は、心理学的効果(ほとんど)と、スーパームーン?効果(少し)で大きく見えました。さらに満月が11日の午前3時9分、近地点通過が午前2時43分なので10日の宵のほうが11日の宵よりも、ほんの少し大きいともいうのですが、この違いは見てわかるようなものではありません。

 前出のように、スーパームーン?効果だけで大きく見えるわけではなく、普段から低空の月は大きく見えています。さらに今宵は、今日は大きいですよっ! と聞いて見上げるという心理的効果もかなりあるでしょう。

 確かに、いや、普段と変わらないですよ、なんて言いにくいものです。かといって、まるで新たな現象が見つかったような煽り方はよくないと思うのです。

 いずれにしろ、本物の月は素敵です。これをきっかけに、月を愛でて、ありのままの美しさを感じていただけたらうれしいです。

 

300mm望遠レンズ(相当)で撮影した昇ったばかりの赤い月

Canon EOS Kiss-D 200mm F2.8 1/6秒 ISO100
2005年9月18日 18:36 距離 36.2万km

▲ページ先頭へ