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地下環境を利用する-ジオプロジェクト-

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展示作品の狙い

地下利用のプロジェクトが進められています。単に地上と同じように快適な空間を人工的に作るのではなく、地上にはない地下環境が持つ特性を活用しようする研究が進められている現状を紹介します。

知識プラスワン

 地下利用と言えば、地上と同じような人間にとって快適な空間を地下につくったり、都市部のインフラ整備したりするなどを連想するかもしれません。しかし、それだけでなく、地下資源・エネルギーの確保・保管、またその利用で生じる廃棄物の処分まで、私たちはますます地下に頼ろうとしています。安易に地下空間をつくって、もとの地下環境を変えてしまえば、長期にわたり安定的に利用できるとは限りません。そこで、地表環境と同様に、地下環境に出来るだけ影響を与えず、地下環境が持っている特性を活用する地下利用が求められるようになってきました。そのためには、地下環境の特性や機能を理解し、それを巧みに利用する技術が必要です。
【都市交通網】
 現代の都市においては、共同溝や上下水道などのインフラとして地下空間が活用されています。とくに大都市圏では、これを進めて、公共性の高い事業においては、大深度地下を利用しやすいよう法整備され、交通網や物流システムの合理的なルート設定が可能となっています。リニア中央新幹線でも大深度地下の活用が検討されています。
【地熱発電】
 地熱発電とは、地下深部から熱水を取り出して発電する方法です。日本の地熱資源は膨大であるにもかかわらず、その発電量(約53万kW)は全発電量の1%にもなりません。十分な熱水や蒸気が出てこないリスクがあることや、有望な地域が国立公園などに指定されている場合が多く景観や自然保護など点から開発に制約があるためと言われています。しかし、火力発電に比べて二酸化炭素排出量が圧倒的に少ないことから、今後ますます重要性が増していくでしょう。
【地下水有効利用】
 地下水は、工業用水から生活用水まで様々な用途に利用されています。最近では、水温が安定していることから、ヒートポンプに活用されるようになっています。また、上水道のバックアップとしての活用が注目されています。たとえば、災害時に上水道が破壊された場合、その復旧は電気や電話に比べて時間がかかります。そのような事態になったとき、地下水(=井戸水)があれば安心というわけです。技術の進歩によって深井戸が掘削しやすくなり、病院などで活用され始めています。
【科学実験施設】
 科学実験施設としても地下環境が利用されています。その代表的なものが岐阜県飛騨市神岡町の「スーパーカミオカンデ」です。ここでは超新星爆発によるニュートリノを世界で初めて観測することに成功し、小柴昌俊博士がノーベル賞を受賞したことで有名です。ニュートリノは、岩盤を通り抜けることができますが、観測の妨げとなる他の宇宙線が遮断できます。それ以外にも、地下微生物、地下水、地下掘削技術開発など地下環境を知るための研究が、世界中の地下実験施設で行われています。
【地下資源探査】
 地下環境において有用な鉱物などが濃集した部分(鉱床)を掘り出すことで、私たちは地下資源として使うことができます。金銀やレアアースといった鉱物資源から石油・天然ガスといった化石燃料まで、地下資源を探査することは、特定の元素が集中する何らかの自然現象を探っていくことに他なりません。
【石油・LPガスの備蓄】
 日本において消費される石油や液化石油(LP)ガスは、ほとんど輸入に頼っています。これらの供給安定性を確保するため、石油とLPガスの備蓄が行われています。強固な花崗岩などの岩盤に空洞を掘削し、その空洞をタンク代わりにして、地下水の水圧で閉じこめます(水封式)。地上タンクに比べ、広大な敷地を必要とせず、大量の備蓄が可能となります。
【二酸化炭素地中貯留】
 温室効果ガスである二酸化炭素排出量を、省エネだけで削減するのは限界があると言われます。そのため、二酸化炭素を大気に放出することなく回収・貯留する技術のひとつとして、二酸化炭素を地下に安全に閉じ込めようとする方法が考えられています(詳細は別項目参照)。
【放射性廃棄物地層処分】
 核燃料を使う原子力発電を行えば、放射性廃棄物が発生してしまいます。今後の原子力政策の如何を問わず、すでに半世紀に及ぶ発電によって蓄積されてきた放射性廃棄物の処分は、解決すべき課題です。そこで、高レベル放射性廃棄物の処分方法としては「地層処分」が有力視されています。放射性廃棄物をガラス固化させた後に30〜50年間専用の施設で貯蔵・冷却した後、地下300メートル以深の地下深部に埋設することで、長期的に人間の生活環境から隔離する方法が検討されています。
【地下生物圏研究】
 長い間、生物がいるとは思われていなかった地下深部の地下水中に大量の微生物が存在していることが分かってきました。コップ1杯あたり約100万から1億個体もの生物がいると言われ、海洋に勝るとも劣らない生物が存在している可能性があります。それら微生物が石油や天然ガスのもとを作り出しているかもしれません。環境改善など人間社会にとって有用な微生物がいるかもしれません。地下生物から生命の起源に迫ろうとする科学者もいます。地下生物圏の探索は、まだ始まったばかりです。

 


【 参考資料 】

参考資料
地下環境研究のフロンティア~地質学に関わる新展示企画アプローチ~(2010) 西本昌司(名古屋市科学館紀要第36号)
文 学芸員 西本昌司

 

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