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宇宙環境を利用する -「きぼう」日本実験棟-

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展示作品の狙い

 高度約400キロメートルで地球を周回する国際宇宙ステーション。そこに接続されているのが日本の実験棟「きぼう」です。この展示では「きぼう」の10分の1の模型と、宇宙という微小重力や高真空といった環境で行う実験の紹介、宇宙飛行士が安全に過ごせる実験室としての「きぼう」製造の技術などを紹介します。


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知識プラスワン

【名古屋地域で製造】
 きぼうの船内実験室、船内保管室の構造部分は名古屋の愛知県飛島村の工場で製造されました。そこは名古屋港の金城ふ頭の対岸です。工場の敷地内で船を着岸できるため、製造した大型機器を直接船に積み込んで輸送できます。「きぼう」は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の前身、宇宙開発事業団(NASDA)時代に設計が始まりました。設備を取り付けた船内実験室は、2001年9月に筑波宇宙センターへ運ばれ総合的なシステム試験を行いました。その後、2003年5月にアメリカ航空宇宙局(NASA)ケネディ宇宙センターへ向けて出発しました。NASAの検査に合格した後、2008年6月にスペースシャトルで打ち上げられたのです。
 船内保管室は2000年5月に名古屋港を出発して筑波宇宙センターへ運ばれ、船内実験室よりも前の2008年3月にスペースシャトルで打ち上げられ、国際宇宙ステーションに接続されました。
【きぼうの構造】
 「きぼう」は日本初の有人宇宙施設です。国際宇宙ステーションの中でも最大の実験モジュールで、船内実験室と船外実験プラットフォームの2つの実験スペースからなっています。船内実験室は長さ11.2メートル、直径4.4メートルで内部は1気圧に保たれ、宇宙飛行士は普段の船内服で活動できます。船内実験室では、実験ラックを利用して微小重力環境や宇宙放射線などを利用した科学実験が行われています。また、船外プラットフォームは、宇宙空間に直接さらされていて、宇宙空間での実験や天体観測や地球観測を行うことができます。
【無重量状態】
 「宇宙では無重力」という場合がありますが、これは正確な表現ではありません。重力は2物体の質量(重さ)とその距離で決まりますが、ロケットで宇宙空間へ出てもせいぜい地上数百キロメートル(国際宇宙ステーションで地上約400キロメートル)なので、地球の半径が約6400キロメートルですから、地上400キロメートルの宇宙空間へ出ても地球中心からの距離は約6800キロメートルです。地上と距離の差はあまり無く、宇宙空間と地上との重力はあまり違いません。
 ロケットは高速で宇宙空間まで達して、その高速を維持したまま地球を周回し続けます。秒速約8キロメートルで地表面と平行に進むとき、一定の時間にロケットが重力で落ちる距離と、地球の丸さで地表面が曲がる長さとが同じになります。こうなると、ロケットは、実際は地球に向かって落ち続けながらも地表には落ちずにずっと地球を回り続けることができます。
 国際宇宙ステーションや人工衛星はこうして地球を回り続けるので、重力にさからわず、落ち続けているため、内部では重力の影響がなくなり「重量が無い=無重量状態」になります。実際はわずかに重力がはたらくので「微小重力」という場合もあります。地上とは異なり重たい物質も軽い物質も重力をほとんど受けず、重さの異なる材料を混ぜて均質な物を作ることができます。
【宇宙線】
 宇宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線で、気球の観測で20世紀に入ってからヘスが発見しました。地球は大気に覆われているため、宇宙線は大気中の分子・原子に衝突して二次宇宙線に変わります、二次宇宙線も大気中の原子・分子と衝突するので、地上まで届くのはわずかです。宇宙空間にある宇宙ステーションではこの宇宙線を観測することができます。
【きぼうでの実験】
 きぼうでは、宇宙環境を用いた実験を行っています。分野別では、科学利用分野、応用利用分野、その他の分野、船外プラットフォームを利用した分野があります。科学利用分野では、物質科学や生命科学が、応用利用分野では、地上の製品開発に応用できる研究をします。実験テーマは公募もされており、選考によって決定します。また、文化・人文社会科学利用のアイデアも募集されています。



【 参考資料 】

参考資料
「きぼう」ハンドブック(2007) (JAXA 宇宙航空研究開発機構)
宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター
http://iss.jaxa.jp/iss/kibo/develop_status_14.html
画像出典(日本語): http://kibo.jaxa.jp/about/kibo/
画像出典(英語) http://kibo.jaxa.jp/en/about/kibo/
JAXA web 国際宇宙ステーションと「きぼう」日本実験棟
http://www.jaxa.jp/projects/iss_human/kibo/index_j.html
文 学芸員 鈴木雅夫

 

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