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細胞共和国

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展示作品の狙い

細胞は、生物の基本単位です。細胞の内部には、「細胞小器官」といって、栄養を取り入れ、呼吸をし、エネルギーを作り出しといろいろな生命活動をし、細胞分裂していくための仕掛けがひとそろい入っています。展示品『細胞共和国』では、細胞をひとつの共和国にたとえ、さまざまなはたらきを担っている細胞小器官に大臣になってもらって、それぞれの自己紹介をしてもらいます。細胞の中でそれぞれの大臣(細胞小器官)が生き生きと働いているイメージを持ってもらうのがねらいです。


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知識プラスワン

1665年、イギリスのロバート・フックが顕微鏡で植物コルクの切片を観察して、たくさんの小さな部屋のようなものを発見し、「細胞(cell)」と名付けました。しかし、彼が観察したのは生きた細胞ではなく、乾燥した植物細胞の細胞壁でした。「細胞」の本当の意義がわかってくるのは、150年以上かかることになります。1838年にシュライデンが植物で、翌1839年にシュワンが動物で、細胞が生物の基本単位であると発表しました。その後,精子や卵も細胞であること、細胞分裂が増殖の方法であることがわかり、1858年には、フィルヒョーが、「全ての細胞は細胞から」という有名な言葉を残しています。このように「生物の構造(つくり)と機能(はたらき)の基本単位は細胞である」というのが、「細胞説」で、近代生物学の基礎となっています。
19世紀の後半から20世紀の前半にかけて、光学顕微鏡の改良や試料の製作方法、染色方法が工夫され、様々な細胞が、地道に,精密に研究されていきます。1930年ごろから電子顕微鏡や細胞分画法が実用化されてくると、細胞膜や細胞内部の研究が急速に進み、細胞小器官のダイナミックな様子がわかってきました。現在では、遺伝子レベルの研究が盛んに行われています。
 さて、この展示品の映像の中で、ミトコンドリア(エネルギー大臣)がしんみりと涙ぐむ場面があります。これはミトコンドリアが、細胞の進化の初期段階では独立して生活していた細菌が、ある時点で真核生物の細胞に取り込まれて,共生したという「細胞内共生説」を示しています。証拠はいくつかあります、ミトコンドリアはほとんどの細菌類とほぼ同じサイズです。ミトコンドリアは二重の膜で包まれていますが、その内側の膜は細菌類のものと似ています。そして、ミトコンドリアは特有のDNAを持っていて、細胞内で増えるときには、細菌類とほぼ同じ方法でDNAを複製して、分裂していくからです。ミトコンドリアが共生することによって,宿主の(真核)細胞内で、酸素を使った物質代謝がおこり、エネルギー生産能力が飛躍的に上がったと考えられています。植物細胞が持つ葉緑体も別の細菌類であったものが、植物細胞内に取り込まれ、共生したと考えられています。
※この細胞共和国で扱っている細胞の種類は、DNAが核膜に囲まれている「真核生物」です。細菌類や古細菌類の細胞は核膜がなく「原核生物」とよばれています。



【 参考資料 】

参考資料
生物学 上(2008)P.レーヴンら(培風館)
視覚でとらえる生物図鑑(2003)鈴木孝仁(数研出版)
文 学芸員 尾坂知江子

 

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