名古屋市科学館

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世界で一番新しい花崗岩

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展示作品の狙い

 何気なく見ている普通の石にも大地の歴史が刻み込まれています。日本で見つかった世界記録をもった岩石は、ふつうの見かけの岩石であることを知ってもらうとともに、岩石から大地の変動を探る考え方を解説するための題材としています。

知識プラスワン

【120万年で6000m上昇した滝谷花崗閃緑岩(たきだにかこうせんりょくがん)】
 北アルプスの長野県上高地から岐阜県上宝村にかけて分布する「滝谷花崗閃緑岩」と名付けられた岩石は、世界でも最も新しい花崗岩類のひとつです。「滝谷」とは地名で、「花崗閃緑岩」とは、「花崗岩(みかげ石)」という地下深くでマグマが固まってできた深成岩のなかまです。1992年に発表された論文で、約120万年前の年代であり、露出している花崗岩類としては世界で一番新しいと報告されました。
 「古い」のではなく、「新しい」ことの何がすごいことなのでしょうか。そもそも、120万年前が「新しい」といわれることには、違和感を感じてしまうかもしれません。
 実は、数百万年前の花崗岩でも、そうそうお目にかかれるものではないのです。固まった岩石が地表まで上昇してくるのには、何百万年もかかるはずだからです。たとえば、愛知県で見られる多くの花崗岩は、およそ7000万~1億年前に固まったものです。
 そんな新しい岩石が、北アルプスという標高の高いところに露出しているということが驚きです。北アルプスの穂高岳一帯では、200万年くらい前、巨大なカルデラ火山が噴火活動をしていたことがわかっています。その火山の地下数キロに高温のマグマがあって、80万年くらいかけてゆっくり固まり、今から約120万年前に完全に固まってしまいました。これが「滝谷花崗閃緑岩」です。
 つまり、地下深くにあったマグマだまりが、約120万年ほどで、露出したというわけです。上昇するのも速かったということを意味します。もともとのマグマ溜まりの上面が地下3000mだったとしましょう。現在の滝谷花崗閃緑岩の上面は標高3000m近くにあるので、約120万年で6000m近く上昇したことになります。単純に計算すると、1年間に5ミリくらい上昇したことになります。

【80万年で5000m上昇した黒部川花崗岩】
 2013年、露出している花崗岩の年代最新記録が塗り替えられました。黒部川ダムの北にある仙人谷ダム近くに露出している「黒部川花崗岩」の年代が、およそ80万年前であることがわかりました。露出している高い場所の標高はだいたい2000mくらいですから、地下3000mから上昇してきたとして、単純計算すると年間 6.25mm 上昇してきたことになります。滝谷花崗閃緑岩よりも早く上昇してきたようです。
 つまり、穂高から黒部にかけての北アルプスは、年間数ミリという速さで隆起していることをわかります。地殻変動としては急激な変動といえるでしょう。その原因についてはよくわかっていませんが、マグマの浮力だけでは説明ができないため、プレート運動による東西圧縮力が関係していると考えられています。日本列島が活発な変動帯にあるから、できたての花崗岩が地表に露出することができたのです。

 ごらんのように、滝谷花崗閃緑岩はとりたてて変わった岩石ではありません。どこにでも転がっていそうな岩石です。私たちが知っている地球の歴史は、そんな岩石からわかるデータをたくさん集めて科学的に推理されたことの集大成なのです。

 


【 参考資料 】

参考資料
花崗岩が語る地球の進化〈自然史の窓7〉(1999年)高橋正樹(岩波書店)
文 学芸員 西本昌司

 

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